ホーム » 観光情報 » 十和田八幡平国立公園の四季 » 安比塗漆器
鮮やかな赤や深みのある黒、そして優雅な形状が特徴の安比塗りは、八幡平市の安比川流域で生まれる伝統漆器です。かつて木工職人たちは主にブナ材を使用していましたが、現在ではトチ、ケヤキ、サクラなどの国産天然木が多く用いられています。選び抜かれた木材から作られた器に、職人たちは原漆を何層にも丁寧に塗り重ね、硬化後に磨き、さらに塗りを繰り返すことで、独特の質感と耐久性を生み出します。
現在、日本で使用される漆の約98%は外国産ですが、安比漆器には、今では非常に希少となった岩手県産の漆が使われています。
この地域の漆器工芸は、約1300年前、安比高原の北にある浄法寺が創建された頃に、僧侶たちによって始められたとされています。僧侶たちが寺で使用する汁椀や飯椀が村人たちに受け入れられ、木工職人たちはより良い木材を求めて安比川沿いの集落へと移り、工芸が広がりました。書面で確認できる記録は江戸時代(1603年~1867年)からですが、その頃にはすでに漆の採取が行われていた叺田(カマスダ)周辺の川沿いに、小さな漆工芸家の集落が形成されていました。
この地域で採れる高品質な漆は、基本色を美しく引き立てる透明感が特徴です。安比塗りの漆器は、何層にも塗り重ねる技法によって、独特の豪華な質感と優れた耐久性を実現しています。また、断熱性にも優れており、冷たい料理は冷たいまま、温かい料理は温かいまま楽しむことができます。
一つの漆製品が完成するまでには、顔料の準備やブレンド、塗り重ね、専用の部屋での乾燥、研磨など、52もの工程が必要です。これらの工程を何度も繰り返すことで、ようやく一つの作品が仕上がります。大胆な色彩とシンプルかつ時代を超越したデザインが特徴の安比塗りの漆器は、現代の食卓にもよく馴染みます。適切なお手入れをすることで、各作品は世代を超えてその美しさを保ち続けます。
安比塗漆器工房では、岩手県八幡平の伝統漆文化を次世代へと受け継ぐ活動を行っています。ワークショップでは、漆職人の丁寧な指導のもと、漆の歴史や技術を楽しく学ぶことができます。講義の後には、工房で箸や皿に漆を塗る体験ができるため、世界に一つだけのオリジナル作品を作ることができます。