鉱山景気にかげりが見え始めていた1955(昭和30)年頃、将来の観光需要の増加を予見して、新しい保養所の建設を計画していました。手始めに松川温泉地域をボーリングしましたが、4本打ち込んだうち、温泉が出たのはわずかに1本。残りの3本からは、温泉ではなく良質の蒸気が噴出します。
折しも日本は高度経済成長期。一般家庭に電化製品が普及しはじめており、電力の安定的な供給の需要が高まっていました。蒸気を発電に使えないかと考えた当時の松尾村村長を中心に、学術機関などと連携しながら調査や掘削作業を進めます。
1966(昭和41)年には、日本初の地熱発電所となる松川地熱発電所が操業を開始しました。当時の近代科学の粋を集め、地熱蒸気という天然のクリーンな大地のエネルギーを活用して発電している松川地熱発電所は、50年以上経過した現在(2021年時点)でも現役で地熱エネルギーを創り続けています。
1970(昭和45)年代に入ると、松川地熱発電所から約6キロの区間の引湯に成功。泉質の良い温泉を活用した保養所として八幡平ハイツがオープンしたことを皮切りに、次々とホテルや旅館が建てられ、八幡平温泉郷が誕生し観光事業が大いに盛り上がりました。
2019年1月には、市内2つ目となる地熱発電所「松尾八幡平地熱発電所」が本格稼働を開始。またNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー産業技術総合開発機構)の調査によって、安比地域の地下に有望な地熱資源の存在が確認され、市内3つ目となる「安比地熱発電所」の建設が進められています。
豊かな地熱は、地球からの贈り物。現在八幡平市では、地熱を発電だけではなく産業や農業に活かしており、サステナブルな暮らしを実現しているまちとして知られています。最新のIoT技術と地熱の熱水を活用したバジル栽培、地熱蒸気の脱色作用を活用した地熱蒸気染色など、街のあちこちで大地のエネルギーが生かされて様子を見ることができます。